第26回応用経済時系列研究会・研究報告会




2009年6月27日(土)  10:40-17:00

情報・システム研究機構 統計数理研究所 講堂
東京都港区南麻布 4-6-7
(東京メトロ 日比谷線・広尾駅[H03]下車徒歩7分)


参加申し込み方法については別途こちらをご覧下さい

プログラム

午前の部 : 座長 進藤 久佳(野村證券) 報告30分,討論・質疑応答15分,計45分

10:40-11:15
「株価と取引量の因果解析再訪」
川崎 能典(統計数理研究所)

11:15-12:00
「台風による死亡リスクの価格とその考察」
井川 孝之(総合研究大学院大学/みずほ総合研究所)
コメンテーター:吉田 靖(千葉商科大学)

■ 12:00-13:15
昼食/理事会(統計数理研究所・特別会議室)

■ 13:15-13:35
総会 (統計数理研究所・講堂)




午後第1部  : 座長 西山 昇(クレディスイス投信)

13:35-14:20
「離散ハザードモデルの左打ち切と作為標本:倒産分析への応用」
赤司 健太郎(統計数理研究所)
コメンテーター:阿竹 敬之(国際協力銀行)

14:20-15:05
「ランダム行列によるノイズ除去の統計的仮説検定とその共ボラティリティへの適用」
橘 完太(工学院大学 情報学部),
森本 孝之*(関西学院大学 理工学部)
コメンテーター:小林 景(統計数理研究所)


午後第2部 : 座長 後藤 康雄 (三菱総合研究所)

15:20-16:05 
「地域の景気循環の計測 −電力供給地域別景気指数の開発−」
林田 元就(財団法人 電力中央研究所)
コメンテーター:松岡 幹裕(ドイツ証券)
16:05-16:50 
「Dynamic Stochastic General Equilibrium Models In a Liquidity Trap and Self-organizing State Space Modeling」
矢野 浩一(内閣府)
コメンテーター:齋藤 雅士(日本銀行)

記号*は,複数著者による発表での,実際の登壇者を意味します.




要旨

「株価と取引量の因果解析再訪」
川崎 能典(統計数理研究所)
ひとつの時系列から別の時系列への予測性によって因果性を定義する立場がある。赤池の相対パワー寄与率や、グレンジャーの因果性などがその例である。しかしこれらの方法は、条件付平均プロセスに基づく線形因果性分析の道具であって、例えば条件付分散の変動間の因果性を検出することはできない。本報告では、グレンジャー因果性の枠組みを非線形に拡張したノンパラメトリック回帰に基づく因果性検定の枠組みを紹介し、Hiemstra and Jones (1994) J. Fin.の文脈に沿って株価系列、ボラティリティ、出来高への適用例を示す。

「台風による死亡リスクの価格とその考察」
井川 孝之(総合研究大学院大学/みずほ総合研究所)
死亡率は、医療の進歩等により今後も低下し続ける見方が支配的であるが、インフルエンザ等の感染症の大流行や、地震、津波、台風等の自然災害による死亡率の大幅な上昇リスクも一方で存在している。生命保険会社が引き受ける死亡リスクは、このような様々な要因が考慮されるべきであるが、実際には、保険料や危険準備金に明示的に織り込まれない場合もある。
本稿では、自然災害の一つである台風の到来の可能性が高い地域において生命保険商品を販売する場合を想定し、台風による死亡の増加に係る生命保険契約の死亡リスク価格について、確率モデルを用いて試算し、考察する。死亡率の改善による死亡リスク低減も想定されるため、複数の要因を考慮した死亡率の確率モデルを用いて、生命保険契約が短期の場合と長期の場合について、検証する。
生命保険会社が医療保険や年金商品等の他の保険商品を提供する場合のこれらの商品に係るリスクと台風による死亡リスクとの関係や、損害保険会社を併設する場合の保険持株会社のリスク等についても、併せて考察する。

「離散ハザードモデルの左打ち切と作為標本:倒産分析への応用」
赤司 健太郎(統計数理研究所)
企業倒産の分析の為に、財務変数などのパネルデータを用いた離散型ハザードモデルを定式化することが考えられる。本研究では、企業の参入を許すそのモデルにおいて、参入分布を特定化しない、さらに参入時点が観察できない可能性がある場合(left censoring)の推論方法を考える。また倒産分析では、無作為標本抽出ではなく、観測者が倒産企業群と存続企業群のサンプル比率を調整する(choice-based sampling)ことが間々ある。こうした際の修正された最尤推定法を離散型ハザードモデルに適用する。以上に挙げた推定方法は、ある場合にはロジットプログラムで実行でき比較的容易であり、本邦の企業倒産データを用いた実証結果を示す。
「ランダム行列によるノイズ除去の統計的仮説検定とその共ボラティリティへの適用」
橘 完太(工学院大学情報学部),
森本 孝之*(関西学院大学理工学部)
日内高頻度収益率の交差積和として計算される実現共ボラティリティを用いてボラティリティを推定する際に,ミクロ構造ノイズと呼ばれるバイアスが生じることが知られている.ミクロ構造ノイズを除去する手法として,交差積和行列を固有値分解し,ランダム行列の最大固有値よりも小さな固有値に対応する成分をノイズとみなす手法が既存である.ランダム行列の最大固有値は漸近的にTracy-Widom分布に従うが,既存手法では,ランダム行列の最大固有値の漸近性を考慮せず,その収束値のみを用いる.そのため,本質的なボラティリティを誤ってノイズとみなす危険性が定量的に評価されない.そこで,本稿では,ランダム行列最大固有値のTracy-Widom分布への漸近性に基づいた,共ボラティリティのノイズに関する統計的仮説検定を提案する.

「地域の景気循環の計測 −電力供給地域別景気指数の開発−」
林田 元就(財団法人 電力中央研究所)
日本における地域の景気循環に関する先行研究は,鉱工業生産指数などの単一の指標に基づくものが多かった.しかし,Burns and Mitchell (1947) は,景気循環を「多くの経済活動あるいは多くの経済変数に,ほぼ同時に,そして,繰り返し起こる変動の形」と定義している.この定義にしたがえば,単一のデータのみに基づき地域の景気動向を代表することには問題がある.
本稿では、上記の問題を踏まえ、複数の景気指標から景気指数を抽出した上で、各地域の景気循環の転換点を計測し,そのタイミング,特徴、相違について検討した。この結果、景気循環に重要な影響を及ぼすセクターは地域により異なることがわかった。具体的には,中部、中国、九州、北陸地域は生産活動と消費動向が景気循環に対し相対的に強い影響力を持つ。一方、東北、関東、四国地域は生産活動と雇用動向が景気循環に対し相対的に強い影響力を持つことがわかった。また、景気循環の継続期間の観点では、東北、関東、関西、九州地域は 1 循環の平均継続期間が全国と同程度であるのに対し、北海道、中部、北陸、中国、四国地域では 1 循環の平均継続期間が全国よりも短いことがわかった。また,非製造業のウェイトの高い地域では相対的に 1 循環に占める景気拡張期間の比率が高くなる傾向があることもわかった.

「Dynamic Stochastic General Equilibrium Models In a Liquidity Trap and Self-organizing State Space Modeling」
矢野 浩一(内閣府)
This paper estimates new Keynesian, dynamic stochastic general equilibrium models in a liquidity trap (the non-negativity constraint on short term nominal interest rates) using the Monte Carlo particle filter, proposed by Kitagawa (1996) and Gordon et al. (1993), and a self-organizing state space model, proposed by Kitagawa (1998). In our method, we estimate the parameters using the time-varying-parameter approach, which is often used to infer invariant parameters practically. Moreover, natural rates of macroeconomic data, time-varying parameters, and unknown states are estimated simultaneously. Adopting it creates the great advantage that the structural changes of parameters are detected naturally. In empirical analysis, we estimate new Keynesian DSGE models under a liquidity trap using Japanese macroeconomic data which includes the zero-interest-rate period (1999-2006). The analysis shows that the target rate of inflation is too low in the 1990s and the 2000s, and it causes deflation in the Japanese economy.

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