第20回応用経済時系列研究会・研究報告会




2003年6月21日(土)  9:30-17:00

文部科学省 統計数理研究所
東京都港区南麻布4-6-7
(地下鉄日比谷線広尾駅下車徒歩7分)

参加申し込み方法については別途こちらをご覧下さい

プログラム

午前の部 : 座長 西山 昇(朝日ライフアセット・マネジメント) 報告35分、質疑15分

9:30-10:20
「オーダードリブン市場におけるトレーダーの注文選択行動と株価形成」
諏訪部 貴嗣 (野村證券金融研究所 投資技術研究部、総合研究大学院大学)

10:20-11:10
「最小マルチンゲール測度の下でのオプション価格付け」
森本 孝之(広島大学大学院 社会科学研究科)
コメンテーター:増田 弘毅(東京大学大学院 数理科学研究科)

11:10-12:00
「共和分検定を用いたペアトレード戦略とパフォーマンス」
平野智章*,宇高日出男,金井徹(新光総合研究所),
藤山健三(新光証券),川崎能典(統計数理研究所)

■ 12:00-13:00
理事会 (統計数理研究所・特別会議室)

■ 13:00-13:30
総会 (統計数理研究所・講堂)




午後第1部 : 座長 田村 義保 (統計数理研究所)

13:30−14:20
「日本企業に対する環境格付け手法の考察」
池田 陽介* (岡山大学大学院自然科学研究科)
笛田 薫 (岡山大学環境理工学部)
コメンテーター:才納 信行(日興アセットマネジメント)

14:20-15:10
「ストック・オプションの価値評価」
本山 真(日興フィナンシャル・インテリジェンス 投資工学研究所)




午後第2部 : 座長 阿竹 敬之(日興シティグループ証券会社)

15:20−16:10
「社債価格モデルによる信用リスク情報 −期待損失額とインプライド倒産確率の推定−」
津田博史(ニッセイ基礎研究所 金融研究部門)
コメンテーター:小守林克哉(みずほ第一フィナンシャルテクノロジー)

16:10−17:00
「複合モデルによる企業信用度の評価について −格付と倒産確率の推定−」
谷口 清貴(新日鉄ソリューションズ 金融ソリューション事業部)
コメンテーター:山下 智志  (統計数理研究所)

記号*は,複数著者による発表での,実際の報告者を意味します.




要旨

「オーダードリブン市場におけるトレーダーの注文選択行動と株価形成」
諏訪部貴嗣(野村證券金融研究所・総合研究大学院大学)
マーケットマイクロストラクチャーの分野における重要なテーマの一つは,取引制度に基づいて,価格形成メカニズムを明らかにすることである.価格形成メカニズムの実証分析に関する先行研究は,マーケットメーカーの存在するクォートドリブン市場を前提としたものが多い.しかし,東京証券取引所はマーケットメーカーの介在しない純粋なオーダードリブン市場であるため,マーケットメーカの存在を想定した構造モデルをそのまま適用することはできない.本稿では,オーダードリブン市場におけるトレーダーの最適注文形態選択のモデルを構築し,実際に観測される株価とトレーダーが観測している理論株価を関連づけ,オーダードリブン市場における価格形成の構造モデルの提案を行った.モデルから,指値注文や成行注文が発生した場合の株価シグナルの強さは,指値注文の執行確率の高さと関連していることが示された.データから日中の注文フローを再現し,分析した結果,時間帯や注文後の経過時間,ブックの状況などによって指値注文の執行確率が大きく変化する様子が観察された.このことから,注文フローが持つ情報量はその注文が出されたときの条件によって変化するといえる.オーダードリブン市場における真の株価特性を分析するためには,市場メカニズムを前提とした情報の解釈が重要だと考えられる.


「最小マルチンゲール測度の下でのオプション価格付け」
森本 孝之(広島大学大学院社会科学研究科)
市場が完備であればリスク中立確率測度は一意に決定し,同値マルチンゲール測度(Equivalen Martingale Measure, EMM)の下でブラック・ショールズ式によりオプションの価格付けが行われる。しかし現実の市場おいて,その仮定が成り立つことは希である。

本報告では,Prigent Renault and Scaillet (1999, 2001)の枠組みに基づき,ジャンプの存在する非完備な市場におけるオプション価格付けの事例解析として,東証1部SONYの2000年4月3日から同年12月29日までの日内株取引データを用いて分析した結果を報告する。

ここでは株式取引を,取引間隔と収益率という2つの値を持つ,マーク付き点過程としてモデル化し,Foellmer and Schweizer (1991)による最小マルチンゲール測度(Minimal Martingale Measure, MMM)に基づくオプション価格付けを行う。より具体的には,取引間隔は条件付き自己回帰デュレーション(Autoregressive Conditional Duration, ACD)モデルによりモデル化し,一方マークの空間は,ある一定幅以上の上昇かそれ以外かという2値に還元して条件付き自己回帰二項 (Autoregressive Conditional Binomial, ACB)モデルで定式化する。これらのモデルの推定結果に基づくモンテカルロ・シミュレーションからオプション価格を導出する。分析結果が示すところでは,オプション価格から逆算されるインプライド・ボラティリティではスマイルが表現されており,ここでの方法は派生証券価格付けの一つの有力な代替案と位置づけることができる。


「共和分検定を用いたペアトレード戦略とパフォーマンス」
*平野智章、宇高日出男、金井徹(新光総合研究所) 
藤山健三(新光証券)、 川崎能典(統計数理研究所)
1銘柄の株価の動きはランダムウォークであり、将来を予想することは不可能に近い。しかし、ランダムウォークである株価同士の組合せの中で、ある因果関係を背景とした一定の均衡関係を有するペア(銘柄の組合せ)を見つけ出すことが出来れば、その均衡からの乖離を利用したペアトレード戦略をたてることができる。

本ペアトレード戦略では一定の均衡関係を探し出すために、共和分という統計的なアプローチを使用する。そして、ペアの関係から、割高・割安の判定およびスプレッド推移を推測して投資を行う戦略である。また本戦略の特徴は、従来のペアトレード戦略とは異なる新たな投資戦略を開発したことである。共和分検定によるスプレッドの定常性に着目して、平均回帰を収益の源泉とする従来のペアトレード戦略とは異なる新たな投資手法を開発し、著しいパフォーマンスの向上が確認出来た。

本稿では共和分検定を用いたペアトレード戦略の有効性、ペアトレード戦略における業種・規模の影響、新たなる投資手法による投資効率の向上および実践的なポートフォリオ作成方法について順を追って報告する。


「日本企業に対する環境格付け手法の考察」
*池田 陽介(岡山大学大学院自然科学研究科)、笛田 薫 (岡山大学環境理工学部)
近年、新たな企業評価軸として企業の環境度がクローズアップされている。その契機として環境優良企業を投資対象とした投資信託「エコファンド」の成功が挙げられるであろう。この「エコファンド」の成功により、環境重視の投資の動きが日本に根付いたといえるかもしれないが、まだこれを疑問視する考え方もある。しかし、企業の信用判断に環境という評価基準が入りつつあることは認識すべきである。

そしてそこから、エコファンドから一歩進んだ「環境格付け」が議論されるようになっている。環境格付けは、環境をベースにした企業の格付けの一種であり、海外では1995年ごろから本格的に行われてきた。しかし、日本では、最近になってその必要性が議論され始めたばかりで海外と比べて遅れている。そこで、今回はこの環境格付けについて研究を行った。

海外の環境格付けの多くは、世界企業の一部として日本の企業も対象にしているが、環境に関する法制度や基準、関心の高い環境問題に地域によって差があるため、日本の企業の評価に違いが生じる。また、環境格付けの多くは業種別に行い、その業種内で相対的に評価しているので、異業種間の比較が困難である。そして、株価や利益と相関関係があると主著しているものが多いが、このような関係があるならば、企業の環境貢献度が社会的な企業評価のひとつの指標となっているといえる。そこで、今回の研究では日本の企業を対象とした異業種横断型で、株価、利益や売上高と高い相関のある環境格付けが可能か調べるため、企業の環境情報と株価、利益、売上高の関係について考えた。

今回の研究で扱った企業の環境データは、各企業が発行している環境報告書(2001)と日経新聞が行った環境経営度調査(2001)を用いた。そして、これらのデータと株価、利益と売上高の相関関係について分析した。

今回行った分析からは最初に予想したような明確な相関関係は得られなっかた。このことから、日本ではまだ企業の環境貢献度が社会的な企業評価の指標となっているとは言えないであろう。しかし、今回扱った環境報告書は記載項目が各社まちまちであり、比較可能性に疑問が残っているため、今回の分析から直ちに日本の企業の環境データと株価や利益にはほとんど関係が無い、と結論するには問題があると考えられる。このため環境評価を統一的に、かつ相互比較できるような数値的な基準の作成が必要である。


「ストック・オプションの価値評価」
本山 真(日興フィナンシャル・インテリジェンス 投資工学研究所)
ストック・オプションの価値をどのように把握するかということが、企業会計における費用計上や商法上の新株予約権の発行に関する議論などで避けられない問題となっている。
ストック・オプションには、
(1)権利行使禁止期間があること
(2)譲渡に制約があること
(3)オプション期間が長いこと
など、通常のオプションとは異なる特徴がある。これらのストック・オプションの特徴を考慮した評価方法について報告する。


「社債価格モデルによる信用リスク情報−期待損失額とインプライド倒産確率の推定―」
津田博史(ニッセイ基礎研究所 金融研究部門)
今日、上場企業の倒産が増えており、企業が資金調達のために発行した社債の市場価格には、顕在化した信用リスク(credit risk)が反映されてきている。今回の発表では、社債価格モデルにより市場でインプライドされている格付け毎の倒産確率の期間構造や期待損失額の時間的変動の実証分析結果やそれらの情報に基く実務への応用に関して報告する。当発表で説明する社債価格モデルは、社債価格の変動を把握するための実践的方法として、統計的モデル・アプローチに基づいている。統計的モデル・アプローチは、 ファイナンス理論を基礎としつつも、現実に観察される現象(金融資産の価格変動)の特性を客観的に把握し、そして、その観察・把握した結果と整合的な計量モデルを推定し、その計量モデルを通して理論的類推・説明を行うといった帰納的な推論方法を意味する。


複合モデルによる企業信用度の評価 −格付と倒産確率の推定−
谷口 清貴(新日鉄ソリューションズ 金融ソリューション事業部)
企業倒産確率の推定では従来財務データを基に判別分析や回帰分析などの統計的手法によりアプローチする方法が多くとられてきたが、今回以下の二つの手法
(1)キャッシュフローに注目したよりロジカルなアプローチ
(2)エキスパートのノウハウに注目したヒューリスティックアプローチを組合せたハイブリッド格付けモデルを開発し、高精度な倒産予測を可能とする結果が得られたので報告する。



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