「構造型アプローチと誘導型アプローチを融合させた住宅ローンの期限前償還率モデル」 一條裕彦(三菱証券株式会社 金融市場企画部 クオンツIT課)」 2004年2月16日(月)19:30〜20:30 |
一條裕彦氏は、わが国における住宅ローンの期限前償還動向の分析を継続している数少ない研究者の一人である。同氏の代表的な研究に、Coxの比例ハザード・モデルを用いた各種変数の期限前償還に対する説明力の分析がある。今回は、それに構造的要素を加えた融合型の期限前償還モデルが紹介された。 近年、民間銀行では企業の資金調達ニーズの低迷を受け、住宅ローン融資の比重を高めている。また、住宅金融公庫RMBSに代表されるように、住宅ローン証券化についても順調に進展を続けている。このような背景から、民間銀行や投資家の間で住宅ローンの期限前償還モデルへのニーズは着実に高まっている。ここで、期限前償還をモデル化する際の重要なポイントは、わが国の住宅ローンを分析した結果から以下の4点に整理される。 (1) In the Moneyの非行使とOut of the moneyの行使が存在する期限前償還オプション (2)市場金利の履歴に依存するバーンアウト効果 (3)経年効果(期限前償還率の期間構造) (4)季節性 そこで本研究では、(1)と(2)の表現に焦点を当てた構造型アプローチに分類されるStanton(1995)と、(3)と(4)の表現に焦点を当てた誘導型アプローチに分類されるSchwartz and Torous(1989)を融合させることで、(1)〜(4)の現象をすべて表現することが可能な新たなモデルを提案している。本モデルの特徴は、両アプローチの長所を活かしながら、それらを融合させることで、他方のモデルが表現できない部分を補っている点にある。また、市場金利の履歴に依存するバーンアウト効果を表現するため想定した取引コストの分布が、その値が小さい債務者の早期脱落により時間とともに歪んでいく様は大変興味深い。 また同報告では、推定された「借り換えに適した状態」の期限前償還率の形状と「借り換えに適さない状態」の期限前償還率の形状が大きく異なり、かつ後者の形状がFHA統計値等のヒストリカル・データの集計値に酷似している点に着目している。これは、「借り換えに適した状態」となる債務者の数が、「借り換えに適した状態」となる債務者の数を上回るような市場環境が長期間持続することは稀であるためと考えられる。そこで、同報告では最後に、過去データの集計値を単純に期限前償還の予測に用いた際、期限前償還の影響を見きわめる上で極めて重要な「借り換え」が増加する金利低下時のキャッシュ・フローを大きく見誤るという危険性を指摘している。 以上 |
執筆・青沼 君明(三菱証券) |