「信用リスク移転市場の最近の動向」
中田 勝紀 氏 (日本銀行金融市場局)


2003年10月27日(金)19:30〜20:30


信用リスク移転商品は、債務保証といった形態で古くから存在してきた。近年、金融技術の発展に伴い、ABSやクレジット・デリバティブといった新たな商品が登場した。これらの新しい信用リスク移転商品は、市場参加者にさまざまなメリットを与える。

金融機関にとっては、クレジット・デリバティブを利用することにより債権を売却することなく信用リスクの移転ができるようになり、また、新たなトレーディング収入を得る機会ともなっている。投資家にとっては、信用リスクだけに限定した投資が可能となった。企業にとっては、企業自らの信用力と無関係に企業が保有する資産の信用力をもとに資金調達をすることができるようになった。これらのメリットは、信用リスク評価の充実(プライシングの効率化)や効率的な資金配分をもたらしている。

信用リスク移転市場の規模については、推定ベースでいろいろな数値が発表されている。英国銀行協会は世界のクレジットデリバティブの想定元本が2002年末で1兆9520億ドルとしている。ISDAも同様な水準である。FITCHのSurveyによると、大手商業銀行と投資銀行から、金融保障会社、保険/再保険会社、欧州の地銀に移転が行われているのが主な信用リスクのフローである。

談話会の様子日本のクレジットデリバティブについては、吉国統計が2002年度末で1.6兆円としている。わが国のCDS(クレジットデフォルトスワップ)市場では、リスクの売り手は海外金融機関が中心であり、買い手は外銀、邦銀、生損保、ディーラーは外資系が中心である。わが国の場合、CDSプレミアムは社債スプレッドを上回っており、低金利下における比較的高い利回り商品として位置づけられている(米国ではCDSプレミアムと社債スプレッドとは同水準となっている)。但し、最近はスプレッドの差は縮小。

最近の注目商品としては、single tranche synthetic CDO(collateralized debt obligation)がある。これはCDS市場レートをもとに仮想ポートフォリオを構成し、メザニン部分等のみを投資家に販売するというスキームで実現されている。すべてのトランシェを販売するわけではないため、投資家のニーズを捉えた素早い組成ができることが特徴である。なお、販売されないトランシェのリスクは、ディーラーがダイナミックヘッジする。

以上


執筆・山田 雅章(UFJつばさ証券)


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