「イールドカーブの形状変化がストリップス債に及ぼす影響〜米国での事例」 山田聡(日興ソロモンスミスバーニー証券) 2003年2月21日(金)19:30〜20:30 |
山田聡氏はマーケットアナリストとして日本国債の市場分析に長年に亘りかかわってきており、その鋭い切り口と正確さは市場関係者から極めて高い評価を受けている。一方、氏のイールドカーブ形成やその変動分析に関する研究論文は、証券アナリストジャーナルやJournal of Fixed Incomeに掲載されるなど、実務界だけでなく学術的業績も豊富である。今回の談話会では、2003年1月から開始された日本国債のストリップス債について、先行する米国の事例をもとにストリップス債の興味深い特性が紹介された。 ストリップス債とは利付国債の利息と元本部分を別々に切り離した証券を指す。ストリップス化の対象債券は、2003年1月から開始となった新振替決済制度の下で発行されるすべての新発利付国債(2年,5年,10年,20年,30年)である。米国では1985年にストリップス債が導入され、キャッシュフローマッチング、デュレーション調整、イミュニゼーションなど様々な用途で利用事例がある。ストリップス債の投資家層は、短中期ゾーンでは銀行とMMF、中期から長期ゾーンにかけては地方自治体(地方債の減債基金)と年金基金、超長期ゾーンは年金基金、生命保険、ヘッジファンドとなっている。 ストリップス債の利用に際して注意しなければならないのは、パーイールドカーブとスポットレートカーブとで形状に違いがあることだ。たとえば、パーイールドカーブが右上(下)がりのとき、スポットレートカーブは理論的には残存期間が長くなるに連れて幾何級数的にパーイールドカーブから上(下)方に乖離していく形状を取る。こうした両者の形状の違いはイールドカーブ変動(従って価格変動)にも差異を生む。たとえば、パーイールドカーブが平行に上方シフトすると、スポットレートカーブはベア・スティープ化する。また、ロングエンド(30年)の利回りを固定して短期ゾーンを上昇させるインバート化では、パーイールドカーブが大半の年限で上昇となるのに対して、スポットレートカーブでは大半の年限で低下となる。 しかし、現実のパーイールドカーブとスポットレートカーブの関係は必ずしも理論通りではない。金利低下予想の局面ではデュレーションの大きい超長期のストリップス債に超過ニーズが生じる結果、スポットレートカーブは超長期で理論値より低く、中長期で理論値より高くなる。すなわち、超長期ストリップス債の超過需要に応えてストリップス化が発生した際に、超長期は順調に消化される一方でデュレーションの小さい中長期ではストリップス債が供給過多となって相場が軟化するといったことが起こる。金利上昇予想の局面では逆にストリップス債から元の利付債に再構築する動きが起こり、中長期ゾーンのストリップス債の相場が強含むことになる。 以上 |
執筆・山田 雅章(UFJつばさ証券) |