第37回応用経済時系列研究会・研究報告会



2022年10月22日(土)  10:00-16:15(最大延長時)

オンライン(Zoomウェビナー)で開催

参加申し込み方法については別途こちらをご覧下さい

プログラム

報告35分,質疑応答15分(討論者の報告,返答,質問を含む)

※各研究報告は開始時刻厳守で進めます。標準的には各報告をトータル50分に収める想定ですが、
最大延長で60分、早く終了すれば次の講演開始まで休み時間を長く取ります。

午前の部 : 座長 TBA(理事が交代で務めます)

10:00-
「創業企業向け信用リスクモデルにおける人的要因の有効性―創業時の年齢,斯業経験年数,創業の「旬」の効果―」
尾木 研三*(専修大学商学部)
峰下 正博(日本政策金融公庫国民生活事業本部)
枇々木 規雄(慶應義塾大学理工学部)
 コメンテーター:大里 隆也(滋賀大学データサイエンス・
AIイノベーション研究推進センター/
帝国データバンク)
■ 11:00-
「脱炭素社会における企業の存続確率モデル」
本山 真(日興リサーチセンター投資工学研究所)
 コメンテーター:伊藤 晴祥(青山学院大学国際マネジメント研究科)
■ 12:00-12:55
昼休み
■ 12:55-13:15
総会(Zoom ミーティング)

午後の部 : 座長 TBA(理事が交代で務めます)

13:15-
「Twitter情報を用いたコロナ禍における経済活動の短期予測」
水門 善之(野村證券株式会社/東京大学大学院工学系研究科)
コメンテーター:池森 俊文(統計数理研究所統計思考院)
14:15-
「日本のGDPナウキャスティング」
林 文夫(政策研究大学院大学)
舘 祐太*(麗澤大学国際研究所)
コメンテーター:浦沢 聡士(神奈川大学経済学部)
15:15-
「コンセンサス予測は“最良の予測”なのか~日本の四半期GDP成長率予測による検証~」
飯塚 信夫(神奈川大学経済学部)
コメンテーター:林田 元就(電力中央研究所)

記号*は,複数著者による発表での,実際の登壇者を意味します.




要旨

創業企業向け信用リスクモデルにおける人的要因の有効性
-創業時の年齢,斯業経験年数,創業の「旬」の効果-

尾木 研三*(専修大学商学部)
峰下 正博(日本政策金融公庫国民生活事業本部)
枇々木 規雄(慶應義塾大学理工学部)
創業する前の企業は決算書がないため,創業企業向けの信用リスクを計測するモデルは,非財務情報を用いて構築する必要がある.非財務情報のなかでも,「創業時の年齢」と「斯業経験年数」は,創業企業に対する融資審査において審査員が重要視する項目であるうえ,創業後の成功と相関があるとする研究が複数あり,重要度の高い変数と考えられる.
そこで,本研究では,日本公庫が融資した約11万社のデータを用いて,「創業時の年齢」と「斯業経験年数」についてデフォルトとの関係を分析し,変数を加工することによってモデルの精度向上を目指す.また,創業にベストなタイミング「旬」が存在するかどうかについて,二つの変数をクロス分析によって検証する.さらに,「旬」の存在が確認できれば,モデルの新たな変数として採用することで,精度が向上するかどうかも検証する.
分析の結果,創業時の年齢は,年齢別デフォルト率を4次関数で近似した変数,斯業経験年数は,年数別デフォルト率を2次関数で近似した変数が有意になった.また,「創業の旬」の存在を確認でき,モデルの新たな変数として,旬で創業したかどうかを示すダミー変数を投入すると,飲食店において有意になった.これらの変数をモデルに投入すると,モデルの精度を示すAR値が,従来のモデルに比べて,インサンプルで5.6%ポイント,アウトオブサンプルで5.8~6.1%ポイント向上させることができた.

脱炭素社会における企業の存続確率モデル
本山 真(日興リサーチセンター投資工学研究所)
脱炭素社会の実現のためには,金融機関や機関投資家等の市場参加者が,企業の温室効果ガスの排出量や気候変動への取り組みを把握し,脱炭素社会に資する企業評価を行い,資本市場における資本配分等の金融面から地球温暖化対策に寄与することが期待される.しかし,温室効果ガスの排出量等の気候変動関連の情報を証券分析や企業評価に反映する方法を確立することはこれからの課題である.本稿では,脱炭素社会における企業の計量的な分析方法の一つの試案として,オプション理論を応用した企業の存続確率モデルを定式化し,計算結果を示しながら,利用方法を検討する.具体的な利用方法としては,①金融機関や機関投資家等の投融資先の評価,②資金調達コストの分析,③二酸化炭素の排出削減に関するシミュレーション,④二酸化炭素排出企業と回収・貯留等を行う企業のマッチングに言及した. 

Twitter情報を用いたコロナ禍における経済活動の短期予測
水門 善之(野村證券株式会社/東京大学大学院工学系研究科)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大は,人々の行動に様々な影響を与えている.未知なるウイルスの広がりに対する人々の警戒は,外出の自粛など,様々な行動変容をもたらしている.本研究では,コロナ禍における人々の感情の変化を計測するために,代表的なソーシャルメディアであるTwitterを通じて発信された,人々のコロナ関連のコメントに基づく,主要な感情の数値化を行った.更に,本研究では,数値化した“嫌気”や“恐怖"等の感情値の推移と,日本各地における人出との関係を検証した.結果,コロナに関連する人々のネガティブな感情値が高まると,1カ月程度のラグを伴って,人出が減少する傾向(外出の自粛度合いが高まる傾向)を確認した.更に,人出はサービス業を中心とした,様々な経済活動と密接に関連する.また,外出の抑制といったコロナ禍での行動変容の度合いは,インターネット上での消費(EC消費)の活況度合いとも関係する.これらを踏まえると,本研究で示した,コロナに関するTwitter情報に基づく感情値が,人出(外出の自粛度合い)の変化に対して先行するという特性は,コロナ禍における短期的な経済活動の変化を予測する上での,Twitter情報の有効性を示す内容と言えよう.

日本のGDPナウキャスティング
林 文夫(政策研究大学院大学)
舘 祐太*(麗澤大学国際研究所)
GDPに代表される経済統計は公表までに大きなラグが存在することが知られており,足元の景気動向などを早期把握する試みはナウキャストと呼ばれている.本報告では,日本におけるGDPナウキャストとしてHayashi and Tachi (2022, Empirical Economics, forthcoming)の内容と,その研究成果を基に2020年12月から公表を開始した「林・舘GDPナウキャスト」のパフォーマンス評価と課題について取り挙げる.
Hayashi and Tachi (2022) では,①代表的な経済指標を対象にしたリアルタイムデータの構築,②予測変化の寄与度分解における新しい手法の適用,③複数の予測時点を対象にしたエコノミスト平均との予測精度の比較,を行った.全てではないものの多くの予測時点においてエコノミスト予測に比する予測精度が得られており,コロナ禍の2020Q1~2022Q2の期間においてもGDPの実績値を概ね追うことができていることが確認できる.
上記の取り組みでは,代表的なデータセットや標準的なモデルが基になっており,①オルタナティブデータの活用や,②非線形モデルや機械学習の活用,が予測精度の改善に向けた方策として考えられる.

コンセンサス予測は“最良の予測”なのか
~日本の四半期GDP成長率予測による検証~

飯塚 信夫(神奈川大学経済学部)
エコノミストの予測の平均または中央値である「コンセンサス」は,かねて最良の予測と評価されている.日本のフォーキャスターの予測を毎月集計している「ESPフォーキャスト集計」を分析した河越・土屋(2021)は,2020年度の予測においてコンセンサス予測(フォーキャスターの予測の総平均)がすべてのフォーキャスターの予測結果の中で「総合4位と17年連続で一桁のよい順位を維持している(平均では5.7位)」ことを明らかにしている.Chikamatsu et al. (2021) は,様々な計量モデルに基づくGDPナウキャスティングとESPフォーキャストのコンセンサス予測を組み合わせることで予測の精度が高まることを示している.一方,The Oxford handbook of economic forecastingは個々の予測の平均値が個々の予測に比べて予測精度が高いのは,数学理論から当たり前に引き出されるものだと指摘している.コンセンサス予測が大きく外れない予測であるとは言えるものの,過度にありがたがるべきではないということである.
本稿では,ESPフォーキャスト集計の個票データを用いて分析することで,各予測者の「コンセンサス」が必ずしも最良予測ではないことを示す.さらに,予測者間のばらつきという情報などを用いることで「コンセンサス」予測の精度を高めることや,各フォーキャスターの予測を単なる平均ではない別の形で集約することで予測精度を高める可能性があることを示したい.


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