第32回応用経済時系列研究会・研究報告会




2015年7月4日(土)  10:40-16:40

東京大学大学院 経済学研究科学術交流棟(小島ホール・2階小島コンファレンスルーム)  東京都文京区本郷7-3-1
(地下鉄丸ノ内線 「本郷三丁目」駅下車 徒歩約10分
地下鉄大江戸線 「本郷三丁目」駅下車 徒歩約8分
地下鉄南北線 「東大前」駅下車 徒歩約15分)


参加申し込み方法については別途こちらをご覧下さい

プログラム

午前の部 : 座長 西山 昇(Dragons' Desk Ltd./千葉商科大学) 報告35分,討論・質疑応答15分,計50分

10:40-11:30
「保険ERMにおけるリスク相関分析
 ―コピュラによる相関推定とリスク合算時の削減効果の検証―」

野田 正勝(日本コープ共済生活協同組合連合会)
コメンテーター:吉羽 要直(日本銀行金融研究所)
11:30-12:20
「Term Structure of Credit Spreads and the Macroeconomy in Japan : A Global Factor Approach」
小林 武(名古屋商科大学経済学部)
コメンテーター:山田 雅章(東海東京証券)
■ 12:20-13:20
昼食/理事会(東京大学大学院 経済学研究科学術交流棟(2階会議室))
■ 13:20-13:40
総会(東京大学大学院 経済学研究科学術交流棟(2階小島コンファレンスルーム)



午後第1部 : 座長 吉田 靖(東京経済大学)

13:40-14:30
「ニュース指標による株式市場の予測可能性」
沖本 竜義(オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院)
平澤 英司*(株式会社 金融工学研究所)
コメンテーター:笛田 薫(岡山大学大学院)
14:30-15:20
「特許戦略の合理性と企業価値の評価」
青木 義充*(株式会社QUICK)
下平 祥貴(味の素株式会社イノベーション研究所)
横内 大介(一橋大学大学院国際企業戦略研究科)
コメンテーター:胥 鵬(法政大学経済学部)

午後第2部 : 座長 川崎 能典(統計数理研究所) 

15:30-16:40 講演60分、質疑応答10分
特別講演「株価指数と先物間の因果関係変化の検証」
木下 亮(大阪大学大学院経済学研究科)
大屋 幸輔(大阪大学大学院経済学研究科&CSFI)

記号*は,複数著者による発表での,実際の登壇者を意味します.




要旨

保険ERMにおけるリスク相関分析
―コピュラによる相関推定とリスク合算時の削減効果の検証―

野田 正勝(日本コープ共済生活協同組合連合会)
本稿では、保険会社のERMにおけるリスク合算について、リスクカテゴリー間の相関の影響を分析した。
分析方法としては、ソルベンシーUにおける相関係数の妥当性を日本の生命保険会社のデータを使って検証した。保険引受リスク、市場リスク、オペレーショナル・リスクの3つのカテゴリーに単純化したモデルを考え、コピュラ関数のパラメータ推定により、相関係数を推定した。
検証の結果、ソルベンシーUでは保険リスクと市場リスクとの相関係数が0.25であるのに対し、本稿のケースでは最大-0.28の弱い負の相関があることが確認できた。相関を反映したリスクの合算では、総和法(単純合算)に比べて最大37%、ソルベンシーUの相関行列で合算した場合に比べて最大25%の削減効果があり、ソルベンシーUが過剰にリスク資本を要求している可能性があることを裏付ける結果となった。
また、資産運用ポートフォリオ最適化においては、保険リスクと株式リスクが逆相関であることに鑑み、市場リスクの範囲に留まらず、保険会社のリスク全体としての最適化の必要性を示唆した。

Term Structure of Credit Spreads and the Macroeconomy in Japan :A Global Factor Approach」
小林 武(名古屋商科大学経済学部)
The purpose of this study is to extract the common factor from individual credit spreads of major Japanese corporate bonds using state-space modeling and examine the predictive contest of the credit spread for the real economy. Exploring the relationship between credit spreads and future real activity can be motivated by the "financial accelerator" theory.A key concept in this framework is the external finance premium," the difference between the cost of external funds and the opportunity cost of internal funds due to financial market frictions. A rise in this premium makes outside borrowing more costly, reduces the borrower's spending and production, and consequently hampers aggregate activity.
Empirical evidence on the performance of credit spreads as predictors of GDP on the other hand is very scarce. Existing studies use the aggregate credit spread by rating categories in US corporate bond market. However it is difficult to analyze the corporate bond spread by using the aggregated credit spread in Japan The problems lie in the fact that the size of Japanese corporate bond market is so small that the average value of the yield depends mainly on the issuers with the large amount of the issuers such as electric power. To overcome the difficulty I apply Diebold,Li and Yue(2008) method and extract the common factors in the term structure of credit spreads in the Japanese corporate bond yield spreads.
The results indicate estimated common factors are important drivers of individual credit spreads. My results also show that credit spreads common factors have a substantial predictive power for future Japanese economic activity. This study makes a contribution to forecasting the future macro variables.

ニュース指標による株式市場の予測可能性
沖本 竜義(オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院)
平澤 英司*(株式会社 金融工学研究所)
本稿では、QUICK端末で配信されている日経ニュースを定量化してニュース指標を作成し、そのニュース指標を用いた株式市場の予測可能性について検証した。分析の結果、ニュース指標は、翌営業日の株式リターンや出来高に対して有意な説明力を持つこと、先行研究で見られたようなリバウンドが観測されることはないこと、などが確認された。これは、本稿で用いたニュース指標が株価に対して本源的な情報を有していることを示しており、非常に興味深い結果である。

特許戦略の合理性と企業価値の評価
青木 義充*(株式会社QUICK)
下平 祥貴(味の素株式会社イノベーション研究所)
横内 大介(一橋大学大学院国際企業戦略研究科)
本研究*では,財務諸表では直接表現されない企業価値のうち,企業の技術力を測る尺度として,企業が保有する特許権に注目する.
企業の技術力を評価するに当たっては,企業の特許出願数または保有数をカウントするように“ 量”を議論するだけでは不十分であり,それぞれの特許の価値のような“ 質”を考慮する必要である.企業が登録した特許を更新・維持していくためには,特許維持年金を納付するなどの相応のコストを企業が負担しなければならない.多くの先行研究では,企業がコストを負担するだけの価値があると判断した結果が特許の登録期間の長さに反映されていると仮定している.同様の仮定の下で,本研究では登録期間の長さを特許価値の代理変数とおき,個々の特許の登録期間を登録されてから消滅するまでの特許の寿命と読みかえることで,公開されている特許情報を説明変量としたガンマ回帰によって個々の特許の寿命を推定する方法を提案する.2013 年12月末時点のTOPIX100 採用銘柄のそれぞれが保有する特許についてモデルを当てはめたところ,先行研究では特許の価値と正の相関があるとされている被引用回数が有意な説明変量とならない企業が存在し,同じ説明変量が選択された場合でも回帰係数の正負が異なるなど,企業ごとの特徴が選択されたモデルに表れる結果となった.また,同一業種内に共通の傾向が見られるなど,業種特有の特許価値の尺度が存在することが示唆された.個々の特許の質が保有企業の価値に与える影響を考察するに当たっては,単純に価値の高い特許の保有数量をカウントするだけでは,企業規模の大きさによる影響のため,企業価値を正確に計測できないおそれがある.本研究では,企業が特許権の申請,登録,維持,消滅という行動を合理的な判断のもとに行うことを仮定し,企業の特許戦略をグループ化する指標を導入した.具体的には,合理的な判断による特許数の絞り込みを,出願時,登録時,登録後7 年目(日本の特許制度では7 年目以降より大幅に特許維持コスト引き上がるため)のそれぞれの時点で実行するか否かに注目している.各グループに属する企業収益の推移について調べたところ,特許登録料が高くなる7 年目以降に向けても価値が高い特許のみを選別するよりもむしろ価値が低い特許を含めて様々な特許を保有する企業のほうが企業収益の平均的な成長性が高く,また,出願時には特許を厳選し,特許登録料が高くなる7 年目以降に向けても価値を判断し登録した特許を絞り込む企業は,企業収益が安定していることも示された.

特別講演「株価指数と先物間の因果関係変化の検証
木下 亮(大阪大学大学院経済学研究科)
大屋 幸輔*(大阪大学大学院経済学研究科&CSFI)

異なる金融資産の収益率間の因果性の分析は,VARモデルをもちいたGranger検定により行われることが標準的なものとなっている。しかし,高速かつ高頻度取引が主流となっている市場で観測される時系列データの特性を,その標準的な方法では十分に明らかにすることができない。本報告では Geweke (1982),Hosoya (1991)で提唱されている因果性測度の周波数分解にもとづき,異なる標本期間における周波数ごとの因果性測度の同等性検定を提案し,その方法により,2013年5月に日本銀行からアナウンスされた量的・質的金融緩和のアナウンスの前後で日経平均とその先物との因果関係がどのように変化したかを検証している。分析の結果,政策発表後には,先物から日経平均への因果性が,すべての周波数領域において,有意な増加を示しており,中位の周波数領域における増加が最も大きく,高位においてはその増加の程度は逓減していることなどが確認された。


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