第29回応用経済時系列研究会・研究報告会




2012年6月30日(土)  10:30-17:00

東工大蔵前会館(東京工業大学・大岡山キャンパス内)
1F:ロイアルブルーホール
東京都目黒区大岡山2-12-1
[東京急行大井町線・目黒線「大岡山駅」下車。徒歩1分。]
http://www.somuka.titech.ac.jp/ttf/index.html

会場への道順 


参加申し込み方法については別途こちらをご覧下さい

プログラム

午前の部 : 座長 笛田 薫(岡山大学) 報告35分,討論・質疑応答15分,計50分

10:30-11:05
「商品先物市場のリスク計測:制度変更の影響分析」
青木 義充*(総合研究大学院大学)
川崎 能典(統計数理研究所)
11:05-11:40
「シミュレーションによる値幅制限緩和・撤廃効果の分析―デフォルト・リスクの観点から―」
荒木 浩介(株式会社 東京工業品取引所)
■ 11:40-12:10
午前の部 討論・質疑応答                  
コメンテーター:吉田 靖(千葉商科大学)
■ 12:10-13:10
昼食/理事会(東工大蔵前会館 2F:小会議室)

■ 13:10-13:25
総会 (東工大蔵前会館 1F:ロイアルブルーホール)




午後第1部 : 座長 川崎 能典(統計数理研究所)

13:25-14:15
「ジャンプとマーケット・マイクロストラクチャー・ノイズがある場合の高頻度データによるボラティリティ推定」
永田 修一(関西学院大学)
コメンテーター:石田 功(大阪大学)
14:15-15:05
「The Volatility Smile Curves Inferred from the Jump Diffusion Model」
山田 雅章
コメンテーター:董 晶輝(ドン ジンフィ)(東洋大学)

午後第2部 : 座長 阿竹 敬之(SMBC日興証券株式会社)

15:20-16:10 
「個人投資家のためのドルコスト平均法の有効性検証」
笛田 薫*(岡山大学)
田路 正幸(岡山大学)
コメンテーター:吉野 貴晶(大和証券)
16:10-17:00 
「ゼロリスク要求にみる安全神話の陥穽−世論調査からみる福島原子力発電所事故の影響−」
西山 昇*(東京工業大学)
今田 高俊(東京工業大学)
コメンテーター:川崎 能典(統計数理研究所)

記号*は,複数著者による発表での,実際の登壇者を意味します.




要旨

「商品先物市場のリスク計測:制度変更の影響分析」
青木 義充*(総合研究大学院 大学複合科学研究科 統計科学専攻)
川崎 能典(統計数理研究所)
本報告では,2009年5月に東京工業品取引所(東工取)が値幅制限に代わり導入した,サーキットブレーカ(CB)制度のもとでの価格変動モデルの構築と市場リスクの計測について議論する.CB制度とは,1日の価格変動の最大幅に上限を持たせる一方で,価格の大幅な変動時には取引を一時停止し,その後値段幅を拡張して取引を再開する制度である.結果的にはCB制度下での値段幅の上限は,旧制度下に比べて大き目に設定されており,制度導入後の商品先物価格のデータに1日における値段幅の上限に達した期間は皆無であった.換言すれば,以前であれば値幅制限に抵触していたような急激な価格変動が起こった場合でも,打ち切りなしに取引価格が観測されている.このような観察に基づき,CB制度導入の前後での日次収益率比較分析のためのモデリング・定式化探索を行った.具体的には,所謂Kouタイプの両側指数分布と,同様の発想で異なる分散を持つ正規分布(half Normal)を張り合わせたモデルと,それらの混合形をあてはめた.推定法はMCMCによった.その結果,CB制度導入以前では,正規型にせよ指数型にせよ,ほぼ0を中心とした対称な分布が適切と結論されたのに対し,CB制度導入後には,価格の上昇時と下落時で裾確率の挙動が異なる分布を組み合わせた、非対称分布によるモデル化が支持される.収益率のモデリングでは,ダウンサイドリスクの計測が強調されがちであるが,商品先物取引で空売りを行っている場合には,むしろ上昇局面において損失が膨らむ.従ってリスク管理の実務では,価格の上昇・下降両面を適切に捉える定式化が求められるが,市場リスク管理,追証発生リスクの計測などの実例で,本研究が提案するモデリングの有効性を示す.

「シミュレーションによる値幅制限緩和・撤廃効果の分析―デフォルト・リスクの観点から―」
荒木 浩介(株式会社 東京工業品取引所)
本稿は、商品先物市場における値幅制限のリスク軽減効果を、投資資金の元本割れが生じるリスクという観点から分析するものである。(本研究では、この元本割れリスクを便宜的にデフォルト・リスクと呼ぶ)価格変動を予め設定された範囲に制限する制限値段の下では、損失が拡大する方向に値が大きく動いている際に建玉を仕切る機会が制約され、リスクが高まる場合があるという考え方に基づき、多くの取引所において制限値段を適用する代わりに一定時間取引を停止するサーキット・ブレーカー制度が導入されている。
本研究では、こうした考え方について理論的な示唆を得るべく、東京工業品取引所の取引制度を模した条件下でシミュレーション分析を行った。
具体的な分析手法は、まず、実際の商品先物の価格変動に基づく価格変動のモデル推定、一定の制限値段の下での商品先物取引における証拠金額の変動プロセスをシミュレーションするモデルのプログラミングと、これらを用いた、異なる制限値段を適用した条件下での取引シミュレーションによるデフォルト確率と平均デフォルト額の算出である。
分析結果は概ね、以下のとおりとなった。
@制限値段を拡大するに従って、デフォルト率、デフォルト額ともに低下する傾向がある。ただ、制限値段が価格変動の95%をカバーする水準以上になると大きな差はなくなる。A取引日数が長くなるに従って、デフォルト率、デフォルト額ともに上昇する傾向がある。
以上の結果から、値幅制限について以下のことが考察された。
@十分な市場流動性がある市場においては、制限値段は緩和するほどデフォルト・リスクは低まる。ただし、過去の価格変動の95%程度をカバーする水準以上になると制限値段を拡大してもデフォルト・リスクに大きな変化はなくなる。Aしかしながら、価格変動のボラティリティは日々変化しているため、制限値段が、月に1回の見直し以外には基本的に固定されている状況においては、日々の価格変動の95%をカバーできていない状態が生じうる。Bこのため、制限値段が固定されたまま、各取引日において制限値段設定時の過去の価格変動よりもボラティリティが高まれば、実質的に制限値段を縮小したのと同様の効果があり、デフォルト・リスクが高まっている状況が生じているといえる。制限値段を撤廃すれば、デフォルト・リスクを軽減することが可能である。C制限値段を撤廃すれば、上記のようなデフォルト・リスクの高まりは防止することが可能である。ただし、制限値段がない状態であっても、1日の取引終了後の証拠金(所持金)の残高をみて翌日の仕切発注若しくは追証預託の判断を下していては、結果的には制限値段があって、当日仕切取引ができないことと同じであり、当該判断の前に証拠金(所持金)が枯渇する可能性がある。このため、日中の急激な価格変動リスクへの当日における対応が必要である。


「ジャンプとマーケット・マイクロストラクチャー・ノイズがある場合の高頻度データによるボラティリティ推定」
永田 修一(関西学院大学 理工学部数理科学科)
金融資産の高頻度データによるボラティリティ (収益率の条件付き分散) の推定に関する研究が,近年盛んである. もっとも一般的な推定量は, RV (Realized Volatility ) である. ただし, RVはジャンプあるいはマーケット・マイクロストラクチャ・ノイズが存在する場合には一致性を失うので, 適切なケアが必要になる. ジャンプとマーケット・マイクロストラクチャ・ノイズどちらか一方の対処を議論する研究は, これまで数多く行われてきた.
ここではそれら2つの障害が同時に存在する場合の, 累積ボラティリティの一致推定について考える. 既にその場合の一致推定量として, Podlskij and Vetter (2009)が MBV (modulated bi-power variation ) を提案している. 本研究では, MBVをベースに新しい一致推定量を提案する. 提案推定量はMBVより漸近的効率がよい. シミュレーションによれば, 有限標本でのパフォーマンスも良好である. 最後に実証分析での応用例として, 提案推定量を利用して日経225株価指数データのボラティリティ推定・予測を行った. 結果, 提案推定量を利用することにより, 予測が改善される傾向が確認された.
「The Volatility Smile Curves Inferred from the Jump Diffusion Model」
山田 雅章
Lee-Myklandの方法により検出されたジャンプからMertonモデルのパラメータを設定し、ボラティリティスマイルを計算した(”ヒストリカルスマイル”)。日経平均株価と円ドル為替レートについて、インプライドボラティリティが描くスマイルと”ヒストリカルスマイル”の整合性を検証した。
「個人投資家のためのドルコスト平均法の有効性検証」
笛田 薫*(岡山大学大学院 環境生命科学研究科)
田路 正幸(岡山大学大学院 環境学研究科)
近年、高頻度取引など新たな投資法が用いられるようになっているが、個人投資家がそれらの投資法を直接利用することは非常に難しい。それらの投資法を用いたヘッジファンドへ投資するにしても、どのファンドを選ぶかという問題は残る。その点、従来から存在するインデックスファンドを用いた投資ならばインデックスに近いリターンが期待できるが、当然ながらマーケットリスクを負うことになる。
マーケットリスクへの対処法として、インデックスファンドなどの金融商品を一定の金額で継続して購入するドルコスト平均法は、高いときには少なく、安いときに多く買う方法として有効であると思われている。一方、リターンの期待値がプラスならば、投資期間が長いほど得られる額の期待値も大きくなるので、全投資額を最初に一括して投資する方が良いとも考えられる。
投資におけるリスク減少法としては、投資先の銘柄、市場の分散が有効であるが、充分に分散された投資先に対して、投資資金を一括して投じるかドルコスト平均法を用いるかとの疑問は残る。本研究ではドルコスト平均法と一括投資法の有用性を、シミュレーションを用いて検証した。

「ゼロリスク要求にみる安全神話の陥穽
−世論調査からみる福島原子力発電所事故の影響−」

西山 昇*(東京工業大学大学院 社会理工学研究科価値システム専攻)
今田 高俊(東京工業大学大学院 社会理工学研究科価値システム専攻)
本稿では、2011年3月11日の震災後に発生した福島原子力発電所(以降「福島原発」と略す)の事故を契機として「安全神話」が崩壊した状況を世論調査に基づき分析する。福島原発の事故を経て、リスク・コミュニケーションに関するさまざまな問題が表面化した。「日本はゼロリスクを要求する個人により構成された社会である」というテーゼが存在するかに見える社会である。このため企業、政府は一般市民の「ゼロリスク要求」に迎合する方向でリスク情報の開示を行なってきた。しかし震災後1年を経過しても国の原子力発電所の安全管理に対する信頼度は依然として回復していない。このことから、一般市民がもとめる「ゼロリスク要求」に対してとった、企業、政府のコミュニケーション方法に問題があったと考えられる。震災前は、一般市民の「ゼロリスク要求」に応える形でさまざまな対応を工夫することにより(リスクを十分説明しない、事実を公表しないことを含め)安全神話が保たれていた。しかし一般市民と企業、政府の間の信頼関係が低下した状態が続く現在、「安全神話」は崩壊したとみなさざるをえない。将来のエネルギー選択の議論に際しては、両者の間のリスク・コミュニケーションのあり方を根本的に見直す必要がある。


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