第22回応用経済時系列研究会・研究報告会




2005年10月22日(土)  10:00-16:15

情報・システム研究機構 統計数理研究所
東京都港区南麻布 4-6-7
(東京メトロ 日比谷線・広尾駅[H03]下車徒歩7分)

今年度はチュートリアルと報告会で会場が異なりますのでご注意下さい!

参加申し込み方法については別途こちらをご覧下さい

プログラム

午前の部 : 座長 阿竹 敬之 (日興シティグループ証券) 報告35分,討論・質疑応答15分,計50分

10:00-10:50
「転換価格修正条項付転換社債の計量的評価」
本山 真 (日興ファイナンシャル・インテリジェンス)
コメンテーター:進藤 久佳 (野村證券 金融経済研究所)

10:50-11:40
「天候デリバティブの価格評価とエネルギー事業リスクコントロール」
山田 雄二 (筑波大学大学院 ビジネス科学研究科)
コメンテーター:吉田 靖 (千葉商科大学)

11:40-12:30
「Estimating Time Varying Linear Systems and Control: Applications to Monetary Policy」
矢野 浩一 (総合研究大学院大学 複合科学研究科)
コメンテーター:佐々木 仁*,粕谷 宗久 (日本銀行 調査統計局)

■ 12:30-13:45
昼食/理事会 (統計数理研究所・特別会議室)




午後の部 : 座長 西山 昇 (朝日ライフ アセットマネジメント)

13:45-14:30
「東京証券取引所の日中取引データを用いたParlourモデルの検証」
綿貫 誠司 (野村證券 金融経済研究所)
コメンテーター:安達 哲也 (三菱証券)

14:30-15:20
「日本企業の環境パフォーマンスと株価」
笛田 薫* (岡山大学大学院環境学研究科)
池田 陽介 (岡山大学大学院自然科学研究科)
コメンテーター:速水 禎 (朝日ライフ アセットマネジメント)

15:20-16:10
「15年変動利付国債の評価と最適化ポートフォリオについて」
鈴木 茂央 (日興シティグループ証券)
コメンテーター:野村 俊朗 (野村證券 金融経済研究所)


記号*は,複数著者による発表での,実際の登壇者を意味します.




要旨

「転換価格修正条項付転換社債の計量的評価」
本山 真 (日興ファイナンシャル・インテリジェンス)
昨今,関心が高まっている転換価格修正条項付転換社債について計量的な分析を行った.転換価格修正条項付転換社債は,資本充実をはじめとする企業の多様なニーズに対応でき,資金調達手段として通常の転換社債以上に柔軟な設計ができる反面,株式市場での評価は否定的なことが多く,発行企業の株価が大幅に下落する事例も散見される.そのため,転換価格修正条項付転換社債の特徴を明らかにする必要性が高まっている.そこで,最近の市場環境や発行条件を前提にして価格付け,早期行使と転換株数,資本コストに関する分析を行った結果を報告する.これまで,転換価格修正条項付転換社債の計量的な特徴が報告されることはほとんどなかったため,発行企業だけでなく,既存株主をはじめとする投資家にとっても新たな知見があるだろう.そして,このような計量的な評価は,資金調達が必要な発行企業にとって望ましい設計と投資家に受け入れられる条件を見出すための材料としての意義があるのではないだろうか.


「天候デリバティブの価格評価とエネルギー事業リスクコントロール」
山田 雄二 (筑波大学大学院 ビジネス科学研究科)
天候デリバティブとは、あらかじめ決められた将来の期間および場所における天候データに、支払額が依存するデリバティブ契約である。本研究では、気温に対する天候デリバティブを取り扱い、価格付けおよび天候デリバティブを用いた事業収益ヘッジ効果の測定について考察する。まず、天候デリバティブの最も基本的な契約として気温先物およびオプションを導入し、天候デリバティブに対する価格付けの代表的な手法を紹介する。つぎに、古典的な概念である確実性等価額を天候デリバティブ価格付けに対して適用し、気温先物の相対市場における価格評価手法を導く。さらに新しい価格付けの考え方としてノンパラメトリックトレンド予測に基づく手法を提案し、天候先物の価格付けが時系列データに対する一般化加法モデルあてはめによって与えられることを示す。また、ここで提案する手法は、天候プットオプションなどプレミアム支払時点が事前に行われる場合に対しても、適用することができる。さらに、実際のデータに対して提案手法を適用し天候先物の価格付けを行うことによって、電力事業主が天候デリバティブを用いた場合の、過去の実績値における電力収益のヘッジ効果の測定を行う。また、プットオプションを構築した場合の電力会社の最適な収益構造についての考察を行い、夏季の気温の高いところで夏季の電力収益が飽和する場合に、プットオプションによる高い収益ヘッジ効果が得られることを示す。最後に、ガス会社の事業収益についても同様の分析を行う。


"Estimating Time Varying Linear Systems and Control: Applications to Monetary Policy"
矢野 浩一 (総合研究大学院大学 複合科学研究科)
We propose a method to estimate time varying linear system equations based on time varying coefficients vector autoregressive modeling (time varying VAR) and control the systems. In our approach, the system equations are constructed based on time varying VAR. Furthermore, optimal feedbacks are determined by linear quadratic dynamic programming. The coefficients of time varying VAR are assumed to change gradually (this assumption is widely known as smoothness priors of the Bayesian procedure). The coefficients are estimated by the Kalman filter. In our empirical analyses, we show the effectiveness of our approach by applying it to monetary policy, in particular, the inflation targeting of the United Kingdom and the nominal growth rate targeting of Japan. Furthermore, we emphasize that the monetary policy must be forecast-based because there exist the transmission lags from monetary policy to the economy. Our approach is convenient and effective for the practitioners in the central bank when they are unaware of the true model of the economy. Additionally, we find that the coefficients of time varying VAR change in response to the changes of monetary policy.


「東京証券取引所の日中取引データを用いたParlourモデルの検証」
綿貫 誠司 (野村證券 金融経済研究所)
Parlour[2005]により,リミットオーダーマーケットにおけるトレーダーの注文選択行動を確率的逐次ゲームとしてとらえ,その均衡状態を数値的に求める手法が確立された.これまで,この種の問題では設定を現実に近づけると均衡状態を求めることが困難になることから,過去の研究はモデルに強い仮定を置いたものとなっていたが(Parlour[1998],Foucault[1999]等),Parlourは,Pakes and McGuire[2001]によって提唱された確率的アルゴリズムを利用することで,より一般的な状況を再現したモデルに対して,その均衡状態を数値的に求めることに成功した.Parlourは,均衡状態を求めるシミュレーションにより,これまで知られていたトレーダーの注文選択行動の特徴が再現されたと述べている.再現された特徴は,例えば,板厚やビッド−アスク・スプレッドの大小によってトレーダーの注文選択が変化する等の特徴であり,シミュレーション結果は過去の実証分析と定性的に一致している.しかし,実際にどの程度成行/指値の到着確率が変化するのかといった定量的な議論については,その実証は十分ではない.そこで,今回我々は,東京証券取引所のティック・バイ・ティックの日中取引データを利用して,Parlourモデルの整合性を検証した.日中取引データから観測される実際のトレーダーの行動と,パラメータを変化させたときのシミュレーション結果を比較することで,Parlourモデルによるマーケット再現性を定量的に調べ,その可能性と限界について述べる.


「日本企業の環境パフォーマンスと株価」
笛田 薫 (岡山大学大学院環境学研究科),池田 陽介 (岡山大学大学院自然科学研究科)
近年,環境問題が大きくクローズアップされる中で,エコファンドなどの環境配慮型金融商品の登場し,企業の財務パフォーマンスだけでなく社会,環境,倫理側面からの価値判断も加えた「社会的責任投資(SRI)」が一般化しつつある. 欧米では日本と比べてSRIに関心のある投資家の割合に差はないが,実際にSRI 型の投資を行っている投資家の割合が大きく,SRI がかなり普及しているといえる. これは,一般的な投資家は企業の環境パフォーマンスが株価を左右するか否かということに関心があり,欧米ではSRI が収益性を犠牲にするものではないという考え方が広く支持されているのに対し,日本では情報不足や環境面を評価している環境格付けはいくつか存在するが, これらは収益性と関連付けたものではなくSRI の有効性を合理的に説明できるデータが少ない. ことから,日本ではSRI 型の投資が収益性を犠牲にするのではないかという考えがあり,欧米ほど普及していないのではないかと考えられる.そこで,本論文では日本企業を対象にした環境パフォーマンスと株価の関係について分析し,環境面を重視した投資の収益性について考察した.


「15年変動利付国債の評価と最適化ポートフォリオについて」
鈴木 茂央 (日興シティグループ証券)
15年変動利付国債は金融機関の債券ポートフォリオの14%を占めているが,通常の固定利付債とはリスク特性が異なるため取り扱いには注意が必要である.ここでは15年変国の,リスク特性を概説し15年変国を組入れた債券ポートフォリオの最適化について議論する.15年変国は,1)金利上昇時には価格が上昇する,2)パラレルシフトよりはイールドカーブの形状変化に影響を受けやすい,3)満期年限を越えたイールド変化の影響を受ける,特徴がある.本研究では固定利付債のポートフォリオに15年変国を組み合わせることで,より効率的なポートフォリオを構築することが可能となることを示す.



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